
水声社刊
「アウシュビッツ以降、詩を書くことは野蛮である」と書いたのは、アドルノだが、「ヒロシマの地に『過ちは繰返しませぬから』という慰霊碑を建立したのは、犠牲者に対する侮辱である」と憤慨したのは、ほかならぬ、nannoちゃんである。
出典引用:
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/hiroshima-color-photosパウル・ツェランなんぞは、アウシュビッツ後も、頑張って詩を書いていたが、セーヌ川に入水自殺している。ハイデガーは、自害直前のツェランに会っているが「あいつは気が狂っている、もうだめだ」と呟いたという。

パウル・ツェラン
出典引用:
https://ley-line.hatenablog.com/entry/2015/02/12/142952.jpg)
ヘルダーリン
出典引用:ウイキnannoちゃんは、ハイデガー(ナチスの協力者だった)の、その無神経なタフネスぶりにも感嘆するものの、ツェランの詩は全くわからない。ヘルダーリン同様、ぼくがカルト崇拝(笑)している浅田彰が絶賛しているので、何度も理解しようと思ってその詩を読んだが、彼のドイツ語の内部に刻まれた魂の深い叫びは、ぼくには到底理解できないので、ついに諦めた次第である。浅田彰とぼくは、教養の深さや幅、頭の出来がまるで違うから、これは仕方がない。

アウシュビッツ正門
出典引用:
https://www.targma.jp/vivanonlife/2019/06/post66709/本項の主人公、プリモ・レーヴィは、1919年、トリノのユダヤ人家庭に生まれた。1937年からトリノ大学で化学を学ぶ。第二次世界大戦中、ナチスによるトリノ占領に対してレジスタンス活動を行う。1943年12月スイスとの国境沿いの山中で捕らえられ、1944年、アウシュビッツ強制収容所に送られる。
出典引用:
https://www.targma.jp/vivanonlife/2019/06/post66709/
しかし、1945年1月、アウシュヴィッツが解放され、強制収容所より奇蹟的に生還した。戦後は化学者・技師として働きながら、1947年の『これが人間か』以降、『休戦』、「灰色の領域」という概念について論じた『溺れるものと救われるもの』などで「アウシュヴィッツの体験」をテーマとして描く一方、いくつかの幻想小説も発表。1979年、『星型レンチ』(La chiave a stella)でストレーガ賞を受賞、名実ともにイタリア文学を代表する作家となる。下記は彼の名品の一つに数えあげられる「周期律」である。

周期律
出典:Amazon「メンデレーエフの周期律こそが一篇の詩であり、高校で飲みこんできたいかなる詩よりも荘重で高貴なのだった。それによく考えてみれば、韻すら踏んでいた」
本書で取り上げられている元素。
1 アルゴン Argon/2 水素 Idrogeno/3 亜鉛 Zinco/4 鉄 Ferro/5 カリウム Potassio/6 ニッケル Nichel/7 鉛 Piombo/8 水銀 Mercurio/9 燐 Fosforo/10 金 Oro/11 セリウム Cerio/12 クロム Cromo/13 硫黄 Zolfo/14 チタン Titanio/15 砒素 Arsenico/16 窒素 Azoto/17 錫 Stagno/18 ウラニウム Uranio/19 銀 Argento/20 ヴァナディウム Vanadio/21 炭素 Carbonio
この書物で、レーヴィは、アルゴン、水素、亜鉛、鉄、カリウム・・・など、化学者として歩んできた日々の挿話を周期表の元素とからめて語っている。「青年時代に訪れた浜辺や渓谷と同じように、あらゆる元素が何かを誰かに語りかけるのである・・・」
注目すべきことにはウラニウムがある。ユダヤ人天才科学者、オッペンハイマーのもと、多数の亡命ユダヤ人科学者によって、短期間に完成された、原子力爆弾の最重要原材料である。

オッペンハイマー。アシュケナージ系ユダヤ人。IQ198(実測値)。
アメリカに亡命した数多くの天才ユダヤ人科学者の驚異的な集中力、科学的叡智と協働、インスピレーションとシナジーがなければ、かくも短期間に製造され、人間ではなく、多くの猿の住む街、ヒロシマとナガサキに「実験的に」落とされることはなかっただろう。

ニールス・ボーア。ノーベル物理学賞受賞の天才。もちろんユダヤ系。オッペンハイマーの下で働いた。
30万人の人が瞬時に蒸発した。それは、アウシュビッツの極限的な体験より、人間的で、おそらくは恥辱を感じる時間もなかったろうから、より楽な体験だったろうか?

ナガサキ
レーヴィは、1987年、自宅アパートの階段から転落し、自殺した(事故説もある)。墓碑には、名前と生没年の他にアウシュヴィッツでの彼の囚人番号「174517」が刻まれている。
ぼくが、「アウシュビッツ以降」という言葉に違和感を抱くのは、一部の歴史修正論者の唱えるような「アウシュビッツにガス室はなかった」などといった戯言ではない。
そうではなく、はるかな過去から永劫未来にわたるあらゆる時間とあらゆる場所に、アウシュビッツは現れ、消えていった、ということなのだ。
極限までの人間性の剥奪、そんなことは、古代ギリシャから、現代のアグレイブ刑務所、映画「ソウ」や「CUBE」、ソ連、カンボジア、中国共産党支配下の各地で起きている。
日本の公立小中学校におけるイジメの一形態、
「ターゲットの男の子に、女の子たちの前でオナニーをさせる」
ことも、ぼくには、極限的な人間性の剥奪に思われる。

アグレイブ刑務所における虐待

アグレイブ刑務所における虐待

映画「SWF」
たとえば、古代ギリシャでは、死刑囚を樽に入れ、顔だけ外に出させて牛乳と蜂蜜を塗りつけ、アブやハエがたかるため、皮膚が次第にボロボロにる、囚人はその死まで食事が強制的に与えらえるため、樽の中は徐々に排泄物でいっぱいになり、数日後にはウジ虫がわき始め、生きながらにして体が腐り、やがては死に至る、という死刑方法があった。これは、ガス室の死よりも楽だとはとても思えない。
アウシュビッツに収容されたのは、ユダヤ人、政治犯、ロマ・シンティ(ジプシー)、精神障害者、身体障害者、同性愛者、捕虜、聖職者、エホバの証人などで、その「絶滅」への計画性の緻密さ、大規模さが特異的だとされる。
しかし、丸山眞男は、全共闘が荒らしたあとの研究室に入り、書物が焼かれていたことに激怒した。「床にばらまかれ、泥に汚れた書籍や文献を一つ一つ拾いあげ、わが子をいつくしむように丹念に確かめながら『建物ならば再建できるが、研究成果は・・・これを文化の破壊といわずして、何を文化の破壊というのだろうか』とつぶやいていた。押えようとしても押えきれない怒りのため、くちびるはふるえていた」そして「ナチスだってこんなことはしなかった」と歎いたのである。そう、ナチスは「文化」を心から愛しまた大切にした。それがユダヤ人によるものでも、最高レベルの芸術は認めたのである。しかし、全共闘は、悪ガキそのまま、貴重な蔵書を燃やして喜んだのだ。この点に限定すれば、全共闘はナチスよりタチが悪い。

丸山眞男
出典引用:
http://sanseimelanchory.hatenablog.com/entry/2016/07/31/195046
そして、ぼくはあの、「頭のいい奴はたんと反省すればいい。俺は馬鹿だから反省なんぞしない」といって、第二次世界大戦について大見得を切った、あの、小林秀雄が「悪魔は実在するのだ。その名を『アドルフ・ヒトラー』という」と、書いたことに驚く。古代から現代まで、ヒトラー的人物など五万といた。その全員が、ヒトラーのように、「優しいこころ」も一部に持った人間であった。小林秀雄のこの無知蒙昧な発言には「なにか政治的な意図があったのか」と思わずにはいられない。

小林秀雄
アウシュビッツでの、計画的大量殺戮、人間性を剥奪した殺戮は、1945年以降、世界中に拡大した。人間をナンバリングし、モノとして、処理する利便的な世界。ぼくたちは、それをあらゆる所に見ることができる。きみの額の上にも、ぼくの掌の中にも、「174517」という数字が刻まれている。
いまや、世界には、バラードの預言し、浅田彰が待ち望んでいた「結晶世界的未来」がようやく到達した。コロナウイルスである。ウィルスは生物と物質の中間に近い存在であり、生と死を時間で繋ぐ媒介者なのだから、コロナウイルスに罹患した地球は、バラードの描いた結晶的世界に変化しつつあるといってよい。
わたしは、幸いを望んでいたのに、災いが来た。
光を待っていたのに、闇が来た。
アウシュビッツは宇宙の遍く場所で明滅している。
出典引用:
https://www.afpbb.com/articles/-/3280112
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